電卓を激しく叩く男
まおです。
デートの途中でぷらっと立ち寄った小さな電気屋さんで、レコードプレーヤー2台を衝動買いしようとしている一樹さん。
1台20万円というその価格もさることながら、目にもとまらぬ速さで店員さんの電卓を奪い、値引き交渉に入った一樹さんに驚いた。
「値切る」という行動自体に驚いたのは勿論だが、一樹さんが電卓に表示した価格にも驚いた。
そんなに値切っちゃ、電気屋さん倒産しちゃうよ・・・。
値切る値切らないは地域性の違い?
店員さんは、電卓の値段を眺めながら「申し訳ありません。お値引き出来ないんです。」と言った。
しかし、一樹さんはひるまない。
『じゃあ、このくらいはどう?』と、新たに打ち直した金額を店員さんに見せた。
困った店員さんは「いえ、金額の問題ではなくて、お値引き自体が出来ないんです。」と。
さすがに、店員さんにはっきり値引き出来ないと言われたら、一樹さんも諦めるだろうと思ったが、さにあらず。
一樹さんは『どうして?このプレーヤーがダメなの?他のはいいの?』と店員さんを質問攻めにしていました。
話はレコードプレーヤーだけでなく、他のオーディオ機器や家電にまで広がって来て、収拾がつかなくなっているようでした。
店員さんは困り果て、一樹さんは納得がいかない様子。
仕方なく、私は一樹さんに耳打ちをした。
「あのね、この辺の地域は値引きしないと思うんだ。店員さんも値引きしたことないから、困ってるんだと思う。」と。
一樹さんは、かなり驚いた様で『え~、そうなの?この辺りの人は、みんな言い値で買うの?』と、デカイ声で叫んだ。
店員さんは苦笑い。
私は恥ずかしくて、顔が赤くなった。
後から聞いた話だと、一樹さんの住んでいる所は「値切るのが当たり前」らしい。
値切らないで買うなんて信じられないし、言い値で買うほうがおかしいと。
「ちょっと安くしてよ。」『ああ、良いよ。安くしとくよ。』というのが挨拶らしい。
一方、私が住んでいる地域は「値切る」人はあまりいない。
「値切る」=「貧乏な人」という考えが根強い。
逆に言うと「見栄を張りたい」人が多い地域なのかもしれない。
※ 但し、街中の大手家電量販店では、スマホ片手に値切る人も見られる。
オマケして
私の話を聞いて、ようやく合点がいった様子だった一樹さん。
『俺、恥ずかしいことしたの?』と聞くので「そんなことないよ。良いと思うよ。」と慰めた。
やっと納得してくれたとホッとした瞬間、一樹さんが店員さんにこう言った。
『じゃぁ、値引きの代わりに、これオマケして!』
何?何をオマケしろと言ってるの?と振り向くと、メーカーのロゴの入ったオブジェだった。
ガラスか強化プラスティックか何かで出来た、長さ25センチ×高さ7センチくらいのプレートだった。
そんなもん、どーすんだよ!
と、私は心の中で叫んだ。
可哀想なのは店員さんだ。
ホッとしたのもつかの間、再び額に汗をかきオロオロし始めた。
対応に苦慮した店員さんは、一度、バックヤードに引っ込み、店長らしき人と一緒に出てきた。
店長さんは『2台お買い上げいただいて、在庫もなくなり、展示も不要になったので、どうぞお持ちください。』と言ってくれた。
一樹さんは、物凄く嬉しそうな顔をしていたが、私は、恥ずかしくてうつむいてしまった。
続きは、また明日。