二人だけの時間
まおです。
オーベルジュの夜は長かった。
久し振りに仕事を忘れて、一樹さんはリラックスしていた。
お部屋のソファーに座り、窓の外を眺めながら、ワインを飲んでいた。
「私もちょっとだけ飲みたいなぁ~」なんて無理を言ってみた。
メンタルクリニックで頂く薬のほとんどは「アルコールNG」と書いてある。
それでも何だか飲みたい気分だった。
きっと一樹さんは『ダメ!』というだろう。
ところが・・・だ。
赤ワインを普通のコップに5ミリくらい注ぐと、たっぷりのサイダーで割った。
そして、こぼれんばかりに氷を浮かべると、私に差し出した。
『すんごく薄いワインだけど、まおさんには丁度良いんじゃない?』
思わず、可笑しくて吹き出してしまった。
かろうじて色が付いているか?いないか?
お味は・・・サイダーだよ。
でも、間違いなくワインも入っている。
「ワインを飲んでいる気持ち」になれる。
話は尽きない
ソファーに一樹さんと横並びに座り、お喋りに花を咲かせた。
いつもお喋りな一樹さんだけど、この夜はリラックスしていたのだろう。
いつもにも増してお喋りで楽しかった。
本当にたわいもない話。
お腹を抱えて笑ってしまう話もあれば、鼻で笑ってしまい、一樹さんのご機嫌を損ねたり(笑)
2時間近く話していたんじゃないかな?
今思い出しても、何を話していたか思い出せない。
逆を言えば、特別な話題はなくても、二人の話は尽きない。
それでも23時近くなり、体も冷えてきた。
『そろそろ寝ようか?』
そう言われて、二人で仲良く歯磨きを始めた。
私はいつも叱られる。
『まおさん、力を入れて磨きすぎ。もっと優しく磨かないと歯茎を痛めるよ。』
この夜は、叱られないように意識して磨いた。
横目で私の歯磨きをチラ見しながら、監視していた一樹さん。
思わず目が合って、笑ってしまった。
「そんなに見つめられると、磨きにくいんだけどぉ(^_^;)」
そんな小さな子供みたいな、些細なことが楽しくて幸せだった。
こんな幸せな気持ちは、本当に久し振りだった。
クイーンサイズのベッド
ベットは恐らくクイーンサイズ。
おっきくて、ベットの上でクルクル回転して遊べる^^
ベットもフカフカだけど、枕もふっかふかで頭が沈む。
何だか落ち着かないな^^
そんな超特大ベットの真ん中で、肩を寄せ合う一樹さんと私。
腕枕をしてくれたので、ちょっと甘えて抱きついてみた。
『おやすみ・・・』
あれ?「おやすみ」なのか・・・。
そっか・・・「おやすみ」なんだ。
なんだか、ちょっぴり寂しい気がした。
期待していたわけじゃないけど。
そういうことを、したいわけじゃないけど。
「おやすみ」って言われると、急に寂しくなってしまう。
一樹さん、疲れちゃったのかな?
男の人だって、気持ちが乗らないときはあるよね。
相手が病人じゃ、尚更だよね。
女性としての魅力がないのかもしれない。
そう思ったら少しショックでね。
一樹さんの腕の中で、寂しくて切なくて、涙が出ちゃったんだ。