長い夜の始まり


まおです。

再び鳴った玄関チャイム。

私は、てっきりお寿司屋さんが戻って来たのだと勘違いし、確認もせず玄関ドアを開けてしまいました。

そこに立っていたのは、歯科衛生士の松浦さんでした。

その姿に、心臓が止まるほど驚いた私。

恐らく松浦さんも、私と同じくらい驚いたはずです。
 

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名前で呼ぶの?

私は大きな声を上げてしまったことをお詫びしました。

松浦さんは、そのことについては無反応で、玄関の中を見渡し、私しかいないことを確認すると

「一樹さんは居ますか?」

と尋ねてきました。
 

私は、松浦さんが一樹さんのことを名前で呼んだので、再び驚いてしまいました。

それに「いらっしゃいますか?」ではなく
「居ますか?」と尋ねたのです。

親しい関係であることを、暗に匂わせたのだと思います。

私は動揺を隠せませんでした。

「すみません。ちょっと、今、出られなくて・・・」と絶句していると、松浦さんは手提げの紙袋風呂敷らしき布に包まれた箱を差し出してきました。
 

私は「お預かりしていいものか分からないので、少しお待ちいただけませんか?」と言ったのですが、松浦さんは、スタスタと入って来て、紙袋を玄関の上がり框に置いて帰ってしまいました。

「渡してもらえば分かりますから」という台詞を残して。
 

一体、何なんだ?

夢か?現実か?

半ばパニックで立ち尽くしていたのですが、風呂敷らしき布に包まれた箱に見覚えがあることに気付きました。

従業員休憩室にあった重箱です。

お正月のおせち料理を入れる重箱です。
 

中身を見ることは出来ませんが、そっと顔を近づけてみると、ほんのり醤油の香りがします。

恐らくですが、手作りの料理が入っているのではないかと思いました。

今夜は秋祭り。

一人暮らしの一樹さんの為に、手料理を届けたのだと思いました。

怒りとか、悲しみではなく、猛烈な敗北感に襲われました。

私がしてあげられないことを、している。

そう思いました。
 

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後を追う一樹さん

何も考えられず玄関に座り込んでいると、2階から一樹さんが私を呼ぶ声が聞こえました。

返事もせずに居ると、一樹さんが降りてきて来ました。

『お寿司届いたかな?』

「お寿司も届いた」

『も?』

玄関の上がり框に置かれた重箱を見て、一樹さんは全てを悟ったようでした。

「ごめんなさい。お寿司屋さんだと思ってドアを開けちゃった」

『何か言われた?』

「渡して貰えれば分かるって言われた」
 

一樹さんは深いため息をついた後、こう言った。

『返してくるから』
 

一樹さんは、急いで着替えると、重箱を持って車で出かけて行きました。

『心配しなくていいよ。すぐに帰って来るから。まおさんは、お風呂に入ってのんびりしていて』
 

しかし、その後、一樹さんは
なかなか帰って来ませんでした。

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