ごめんね
まおです。
一樹さんが、目を真っ赤にしていた。
何で?
何で一樹さんが泣くの?
私はティッシュを2~3枚引き抜くと、
先に一樹さんに渡した。
「一樹さんが泣いちゃダメ。どうしていいか分からなくなっちゃう」
『ごめん、ごめん。でも、まおさんに泣かれると、僕もどうしていいか分からなくなっちゃうよ』
一樹さんは、笑いながら、でも、とても悲しそうにそう言った。
「私こそ、ごめんなさい」
『まおさんの入院したくないって気持ちは良く分かるよ。
僕だって、出来ることならここにおいてあげたい。
でも、今の体調をみると、ここに居るのは難しいと思う。
僕がどんなに頑張っても、フォローしきれない。
僕の力だけじゃどうにもならない。
今は、もう少し入院して様子を見よう。
本当に、ごめんね。』
一樹さんから『ごめんね』と言われて、また泣いちゃいそうになった。
でも、ぐっとこらえた。
良くならないのは、一樹さんのせいじゃない。
それに一樹さんは、精一杯のことをしてくれている。
もう、泣いちゃいけない。
私は話題を変えようと思った。
でも、こういう時って、何も思いつかない。
お喋りをリードしてくれる一樹さんが黙っちゃうと、後に残るのは静寂だけだ。
私は耐えられなくなって言った。
「ね~、何か話してぇ~」
『何かってナニ?』
「面白いこと話してよ!」
『あのさ、僕、お笑い芸人じゃないからね』
「なんだ、つまんない。。。」
『あんまりだなぁ~』
そう言って二人で笑った。
『まおさん、明日の朝も笑顔で居てね。
まおさんに泣かれたら、僕、後ろ髪引かれながら仕事に行かなきゃならない』
転院先の病院へ
翌朝は、頑張って起きて、一樹さんと一緒に朝食をとった。
一樹さんは診察があるので、8時過ぎに医院に下りて行った。
私は、昨夜の約束通り、一樹さんを笑顔で見送った。
そして身支度を済ませると、タクシーを呼んで転院先の病院へ向かった。
タクシーの中から、一樹さんの自宅を見えなくなるまで眺めていた。
今度は、いつここに来られるかな?
そう思うと、そこはかとなく淋しい気持ちになった。
途中、いつも一樹さんとジョギングに来ていた公園の前を通過すると、青いガクアジサイが綺麗に咲いていた。
一樹さんは、この公園にガクアジサイが咲いたことを知っているだろうか?
仕事と私のお見舞いに時間を取られ、恐らく、この公園に足を運んでいないのではないだろうか。
一樹さんにも、この美しいガクアジサイを見せてあげたい。
一緒に、この青いガクアジサイを見られたら良かったのに。
今日も一緒に居たかった。
でも、今は、それすら叶わない。