今頃は、マッサージをしていた
まおです。
一樹さんとお付き合いしていた時は、水曜日の午後から自宅にお邪魔していた。
午前中にブライダルのナレーション録りをして、その足で新幹線に飛び乗った。
駅のデパートで夕食の食材を買って、タクシーで歯科医院へ。
夕食の支度をしながら、一樹さんの仕事が終わるのを待った。
『まおさん、ただいま!』
そう言いながら、勢いよくリビングのドアを開けて帰って来たっけ。
喋り出すと止まらなくなっちゃうので、上手く誘導してお風呂場へ。
その間に、大急ぎで夕食の準備。
料理は苦手で、レパートリーも少ない私の手料理を、いつも『美味しいよ』と言って残さず食べてくれた。
ワインを飲む時は、私のグラスに氷を浮かべてくれた一樹さん。
ワインに氷を浮かべるなんて邪道すぎるけど
『まおさんは、ちょっと薄まったくらいが丁度良いでしょ?』
そう言って笑っていた。
本当なら今頃は、一樹さんにマッサージをしてあげている時間。
『仕事が終わって、まおさんにマッサージをして貰うのが一番の楽しみ』
そう言われたのが、何より嬉しかった。
スマホが鳴らない理由
一樹さんから、ピタッと連絡が途絶えた。
交際を始めた当初から積極的で、一樹さんのペースでお付き合いしてきた。
私が病気を理由に何度か「別れたい」と言った時も、決して首を縦に振らなかった一樹さん。
でも、今回ばかりは、呆れちゃったのかな?
あんなに大切にして貰っていたのに、一方的に「もう会えません」なんて言われたら、さすがの一樹さんも嫌になっちゃうよね。
今更、私から電話しても迷惑かな?
そんな自分勝手なこと許されないよね?
本当に自分が嫌になる。
母から知らされた事実
夕食後、母と二人になった。
「その後、一樹さんから連絡は?」
「全くないよ」
「お父さんがね“もう連絡はしないように”って伝えたからだよ」
「えっ!いつ?」
「叔父さんの手紙が届いた後。電話でお義母さんにね」
そうか、そうだったのか。。。
父の怒りは沸点だった。
そんな父から、結納の品を返され、連絡もするなと言われたら、一樹さんも何も出来ないだろう。
一樹さんからの連絡を待っていた私はズルイ。
でも、一方的に婚約解消を申し出て、今更、何と言って連絡をすればいいのか。
もうすぐ日付が変わる。
今頃、一樹さんは何をしているだろう。
何を考えているだろう。
明日の休診日は、何をして過ごすのだろう。
こんなに大好きなのに会えないなんて。
切なくて
悲しくて
寂しい。