父と一樹さん
まおです。
父はすぐに、私と一樹さんの居る客間に入って来ました。
一樹さんの顔を見るなり
「この度は、娘がご迷惑をお掛けして・・・」
そう言いながら頭を下げようとしました。
すると、一樹さんが立ち上がり、それを静止。
『お義父さん、お詫びしなければならないのは僕の方です。』
そう言って深々と頭を下げた。
『叔父が、まおさんに、大変失礼なことを申し上げたようです。本当に申し訳ありません』
一樹さんは、立ったまま、膝におでこが付くんじゃないかと思うくらい、深く頭を下げ続けました。
結婚の話は無かったことに
「〇〇さん(叔父の名)が娘に対して
**と言ったのは本当なのですか?」
父もまた、信じられないといった表情でした。
その後、父と一樹さんは、短い言葉で会話を続けました。
「どうしてそんなことを仰ったのでしょう?」
『申し訳ありません。僕も分かりません』
「娘が何か失礼を?」
『違うと思います』
「娘の言うことが本当なら、親として辛い」
『申し訳ありません』
「一樹君はとても良い青年だ」
『・・・・・』
「でも、娘を嫁にはやれない」
『まおさんからも、婚約解消の申し出がありました』
父は一見穏やかに見えた。
でも、心の底では、かなり怒っていたと思う。
婚約指輪と結納の品が入った紙袋を、
「お持ち帰りください」と
一樹さんに手渡した。
静かな口調だったが、
一刻な父の意志の強さを感じた。
本当にそんなことを言われたのか?
一樹さんも父も母も、半信半疑だったと思う。
でも私が嘘を付く理由がない。
父から結納の品を返されて、
一樹さんも受け取る以外に無かった。
一樹さんは、口に出して『婚約解消を承諾します』と言ったのではないが、結果的に、承諾したことになった。
私も父も、玄関先で失礼した。
母だけが、一樹さんを外に出て見送った。
本当に、呆気なかった。