一樹さんのご実家へ
まおです。
お義母様へのお土産を買って、一樹さんの運転する車でご実家へ伺いました。
仲人探しがお義母様の負担になるのなら、仲人無しで結納&挙式・披露宴にしようと一樹さんと話し合い、その旨を伝えようと思ったのです。
結婚式をしなさいと言ったのはお義母様。
仲人を頼むと言ったのもお義母様。
そう言った手前、取消せないで困っていらっしゃるかもしれない。
ここは私達から「仲人は不要です」と伝えた方がいいんじゃないかと考えたのです。
叔父様と鉢合わせ
玄関先まで迎えに出てくれたお義母様と、お手伝いの山田さん。
お庭の花が綺麗に咲いていて、しばらくそこで花を眺めながら立ち話をしていました。
女性3人の世間話に飽きた一樹さんが
『そろそろ中に入れてくれ』
そう言って、笑いながらみんなで家の中に入ろうとしたとき、一人の男性が歩いてくるのが見えました。
「あら、〇〇さんだわ。丁度いいわ。まおさんを紹介しましょう」
お名前から、仲人を断ってきた叔父様だと分かりました。
実家に隣接する土地に、本社家屋があって、叔父様は役員なので平日は出勤されていることは知っていました。
何か用事があって見えたのか、私たちの姿を見つけて来たのかは分かりません。
急なことで緊張しましたが、とにかくご挨拶をしなければと姿勢を正して待ちました。
『こんにちは。叔父さん、紹介します。こちら婚約者のまおさんです』
そう紹介してくれた一樹さんに続いて、ご挨拶をしました。
「初めまして。まおと申します。よろしくお願い致します」
頭を下げて、しっかりお辞儀をしました。
しかし・・・
叔父様は、私が頭を上げるより前に、私の前を無言で素通りし、家の中に消えていきました。
えっ?
一瞬のことでしたが、無視されたんだとすぐに分かりました。
自分の全身から、血の気が引いていくのが分かりました。
一樹さんは大きな声で『ちょっと待って下さい』と言いながら、叔父様の後を追って家の中に入っていきました。
お義母様も慌てた様子で「一樹、やめなさい」と二人の後を追いかけていきました。
残された山田さんは唖然。
私は頭が真っ白というか、呆然と立ち尽くしました。
すぐに山田さんが、私を応接室に通してくれたのですが、奥のリビングから一樹さんの大きな声と、お義母様の「やめなさい」という声が聞こえます。
一樹さんが手を出すとは思いませんでしたが、万一、男性二人が喧嘩になったら、お義母様一人では止められないと思ったので、山田さんに様子を見に行って欲しいとお願いしました。
その間、私は震えながら待っていました。
漏れ聞こえる内容から、私はその場に行かない方が良いと思ったからです。
とても長い時間に感じましたが、恐らく3分か、長くても5分位だったでしょう。
血相を変えて戻って来た一樹さんに
『まおさん、帰るよ!』そう言われ、
腕を引っ張られて、そのまま車に戻り
ご実家を後にしました。
悲しかったけど涙も出ず。
怖かったけど怖いとも言えず。
お互いに無言のまま車を走らせ、
自宅へと戻って来たのです。