まおです。
彼との待ち合わせ時間の20時。
私と南さんは、かつてデートの時に待ち合わせたJRの駅の送迎レーンで彼を待った。
どこかで花火大会が行われているようで、浴衣を着た若い女性が、彼氏にエスコートされながら歩いている。
そんなデートは久しくしていない。
そんなことを思っていると、彼の車が走って来るのが見えた。
ボイスレコーダー
私と南さんは、無言のまま、彼の車の後部座席に乗り込んだ。
デートの時は、当たり前だが助手席に座った。
後部座席から、空席の助手席を眺めるのは、何とも複雑な気持ちだった。
彼も無言で車を走らせた。
自宅マンションとは別の方向に向かっていた。
私が、どこへ行くのかと尋ねると、彼は、公園で話をしようと言う。
私も南さんも、自宅マンションで話をしようと主張したが、ハンドルを握っているのは彼だ。
15分程走り、大きな公園(史跡)の駐車場に着いた。
車のエンジンはかれられたまま。
この日は、日中かなりの暑さで、エンジンを止めれば暑くて居られないだろう。
南さんは、バックの中を気にしていた。
ボイスレコーダーに、ちゃんと声が録音されるか心配だったのだろう。
そう、南さんはボイスレコーダーを用意していた。
私達を自宅に入れない彼
私達は、ボイスレコーダーを持ち込んで、彼が四股?五股?を掛けたことを認めさせ、謝らせようと思った。
しかし、彼の方も、ボイスレコーダーを持っているかもしれない。
後に、脅迫されてお金を支払ったなどと訴えるやもしれない。
ここは、とにかく発言に注意しなければならない。
私は緊張して、第一声が出なかった。
彼もまた、黙り込んだままだ。
静寂を破ったのは、南さんだった。
彼女は、穏やかな口調だけれと、ストレートな物言いだった。
『どうして今夜は、貴方のマンションに入れてもらえないの。こんなところで話すより、部屋の中でじっくり話をしたい。これでは貴男の顔も表情も見えないわ』
彼は、押し黙ったままだった。
彼は、運転席に座ったまま前を向いており、その表情は、サイドミラーでしか確認出来ない。
車のエンジン音だけが響く、重苦しい空気が流れた。
言っちゃった・・・
そんな重苦しい空気を破ったのは南さんだった。
『貴方が何も言わないのなら、私が答えてあげる。貴方が、私達をマンションに連れて行かないのは、別の女性が訪ねて来て、また鉢合わせしたら困るからでしょ?私達が、貴方の部屋で不誠実な交際を謝罪しろと迫っている時に、婚約者の彼女が訪ねてきたら、言い訳できないものね!!』
いきなり、言っちゃった。。。
作戦外の爆弾発言。
そんなことを言ったら、その情報をどこで知ったか追及されるに決まってる。
南さんが、合鍵を使ったことがバレてしまう。
自分を不利な立場に追いやって、どうするつもりか?
彼は、明らかに動揺していた。
彼の横顔から、血の気が引いていく様子がみてとれた。